シャーロット・グレイ (2001)
»レビュー
女優の凄味
2008/05/01
by
牧坂満
空撮によるラベンダー畑の紫色が目に沁みる鮮やかな画面から映画が開始されます。やがてカメラは鉄橋を走る蒸気機関車を俯瞰するように撮影され、客車内のシャーロット・グレイ(ケイト・ブランシェット)のクローズアップになるのですが、この色彩豊かな画面は彼女がロンドン入りしたときから一変するのです。
第二次世界大戦下のロンドンの風景は退色したような、ブルーを基調とした画面ですが、その風景の中を真赤な二階建てバスが走るシーンが女スパイとしてドイツ軍占領下のフランスに赴く彼女の心情を描写しているようで見事です。彼女の衣服も赤を基調としており、ブルー一辺倒の風景の中で象徴的です。この対比は古城の傍に設置してある電話ボックスも赤で描かれており、彼女はそこから電話連絡をするのです。
第三帝国に支配されたフランスでは、レジスタンスたちが傀儡ビジー政権へ抵抗運動を試みていますが、レジスタンス活動をささえているイギリスもドゴールもレジスタンスの中にいる共産主義者とは目下の敵であるナチスドイツのために手を握っているいう不安定さも描いています。
それにしても、古今東西いずれの世界にも矮小な官僚がいるものです。卑屈なフランス人の地方権力者ルネックスや自己弁護の元にナチスドイツ軍の戦争犯罪に協力する官憲たち。
ネタバレになりそうなレビューが多いのが気になりますので、簡潔に述べますが、シャーロット・グレイが自分の命を賭けて打ったタイプライターによる文章が二人のユダヤ人少年たちの魂を救済します。アウシュヴィッツ強制収容所を体験した「夜と霧」の著者V・E・フランクルは“収容所では単に頑強な人より、精神的に高い生活をしてきた人が生き延びた”と指摘しています。二人のユダヤ人少年たちにとっては、この文章が精神的支えとなったことでしょう。
それにしても、ケイト・ブランシェットの圧倒的存在感に尽きます。彼女が演じるヒロインが傀儡政権の警察官に向けた銃口のシーンの表情だけでも並の女優はケイト・ブランシェットと同じ職業であることに憧憬と畏怖の念を抱くでしょう。
2030年までにドイツは十兆円の補償金をナチ被害者に払い続けると宣言しており、既に八兆円を超える賠償を支払っています。マキャベリーの有名な言葉を引用させて頂きます。“戦争はいつにでもすぐに始められるが、簡単に終わらせることは出来ない”戦争責任は未だ終わっていないのです。
【NHK衛星第二放送】鑑賞
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