夕凪の街 桜の国 (2007)
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父の青春
2008/06/30
by
ペンギン
予告編と前評判でかなり良い映画だと期待してはいましたが、この監督の「出口のない海」がもう一つだったのでどうだろうかという疑問もありました。
田中麗奈目当てに観ようと思っていましたが、近所の劇場で舞台挨拶があった日、どうしてもはずせない用事が出来て行けなかったのが悔しくてとうとう劇場公開を見逃してしまっていました。
そしてDVDで観たわけですが、つまらないことに拘って観に行かなかったことを後悔。素晴らしい映画でした。
しかも絶対大きなスクリーンで観た方が良い。懐かしい、切ない時代の日本と、桜並木が圧倒的です。
いつも思うけど、紅葉と桜吹雪は大スクリーンで観るべきモチーフですね。
原作の持ち味なのか、お話が実にしっかりしている。
普通なら後半のお話をメインに、前半部分は断片的に回想として挿入してサスペンスと謎解きで見せてゆくというのがこういうドラマのセオリーなんでしょうが、その謎の部分を独立させて一本の映画にし、それを「前半で」先に見せておくという逆転の構造になっています。
これによって重点はミステリーや謎解きに置かれず、ある家族の運命を見せる大河ドラマになり、観客は主人公と共に謎を解いてゆくのではなく、主人公が徐々に真実に近づいてゆくのを見守る立場に置かれます。そして時間軸に沿った主人公の心の変化に感動させられるのです。
祖父母や両親というのは実に奇妙な存在です。
初めて接した時から彼らは「おばあちゃん」であり、「おとうちゃん」「おかあちゃん」であって、その役割の人として「私」の周りに存在します。
どんな人間にも少年少女の時代があり、青年になり悩んだり笑ったり泣いたりして大人になって行くわけですが子供にとって祖母や両親は生まれつき祖母であり両親であるわけで、どうしても一個の人間としてみられないところがあります。
親である前に男であり女であり一人の人間なのですが、理屈では判っていても実感として両親の少年少女時代など想像しにくいわけです。あのおばあちゃんに可憐な少女時代があったことも。
他人なら比較的たやすく想像できるのですが、不思議です。それほど肉親というのは特殊な存在なのです。
今年祖母を亡くし、両親が高齢になっているという個人的な理由も大きいですが、この主人公のように父親の青春を追体験することは何と素敵なことかと、テーマである「被爆者」を越えてその部分にひどく感動しました。
その父親を堺正章が終始無言の演技で見事に演じています。
想い出の木の下で、姉のかつての恋人と再会するシーンなど、実際のドキュメンタリーを観ているようで涙が溢れました。
そして終盤「いつものお父さん」として現実に戻るところも実に見事です。
麻生久美子という女優はどちらかというと苦手で大して興味もなく、私は田中麗奈が目当てだったのですが、本作で思いを改めました。
麻生久美子、実に素晴らしかった。間違いなくこの映画は彼女で成り立っているでしょう。意外と演技派だったんですね。
それと後編の回想シーンから登場する主人公の母親の存在。彼女が過去と現在を繋ぐ大切なキーパーソンです。少女時代も大人になってからも魅力的でした。
そう思ってみればこれは三代にわたる女性映画なのかもしれません。
あの髪飾りは主人公の友達に譲るべきなのでしょうね。
意外と一番テーマに沿っているのがこの友人で、本筋ではなく傍流で恋人のルーツをたどりながら原爆の悲惨さを追体験してゆきます。短いシークエンスですが重要です。こういう見せ方が素敵ですね。
ただひとつ、これはこの作品の核になる部分かもしれませんが、被爆者とそうでないものとの、これは決定的なメンタリティーの違いなのでしょうが、原爆投下をした加害者たちへの呪詛の言葉、「『また一人殺せた』と喜んでるかなあ?」と言う部分には未だ違和感があります。
あのシーンが一番心に残るシーンだっただけに引っかかりました。
「原爆は落ちたんじゃなくて落とされたんよ」というのは全くその通りだと思いますし、どういう理由があろうと核爆弾の使用が許されるはずもないのは当然ですが戦後の我々は「戦略としての原爆投下」という視点を持っているため「殺して喜ぶという事じゃないでしょう」と思ってしまいます。
当時、被爆された人たちはそういう風に思っていたんでしょうかねえ?
あれほどの現実の前ではやはり言葉がありません。
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