夕凪の街 桜の国 (2007) »レビュー

知らなかった原爆の事実

90点 2007/09/02 by りんぼ

夕凪の街 桜の国

反戦映画というのはよく見せられた気がするが、映画の出来以上にテーマが重要視されることもよくある。そういう作品は教訓を得ても、心情の理解には至らないことがある。同様に原爆を反対することを頭では理解することと、自分自身が共感するのでは差があって、実際、自分は被爆者の心情を深くは理解していなかった。事実、私はこの映画はちょっと敬遠しているところがあった。どうせ反戦ものとして評価が高いのだろう、くらいに考えていた。
しかし、この映画を見てちょっと自分の見方が変化したように思える。簡単に言うと実感ということになる。それほどにこの映画は我々に近い視線で原爆のことを語っているのだ。登場人物のあまりに深い悲しみや苦しみを見ると、平和を願う気持ちがどういうものなのかを教えられるのではなく、それを自分のことのように実感するのだ。それが私には衝撃だった。

原爆の恐ろしさというのは歴史の教科書で何度も見ているし、体験談も何度も聞いたことがある。それでも、どこか自分とは違う世界の話のような気がしていたのは事実だ。しかし、主人公皆実のエピソードは真に迫る辛さがある。原爆の恐ろしさが爆発の後も放射能汚染という形で被爆者を苦しめていく。そのことが人生においても大きな枷である点も痛ましい。身体的にもそうだが、自分が生きていていいのか? と思うほどの深い心の傷は簡単に癒せない。それは自分一人では不可能なのではないだろうか? その心の穴が埋められるのは言葉にすると陳腐なのだが、やはり「愛」をおいて他に無いと思える。告白のシーンに感動するのは単に恋愛の問題だけではなく、自分の存在を肯定出来たからでもある。

もう一人の主人公七波は実に良かった。口調や性格が正に今の我々で同じ立場に立つことが出来る。
彼女が話を牽引することはこの映画に大きな意味がある。彼女の役どころは時代の継承ということになる。彼女は無意識のうちに受け継いだものを知ることになり、それが自分たちにとってどれほどの意味があるのかを理解することとなる。彼女の立場とはつまり我々と同じなのだ。そこに彼女が主役である意味がある。
彼女は決して教え込まれることで事実を知るわけではない。寧ろ祖母も母もそのことを積極的に教えたりはしない。実際にも原爆の体験は語るのも辛いことばかりだろう。
しかし、この出来事は極めて我々と密接なところに関係している。我々はそのことにただ気付かないだけなのだ。過去の出来事を風化させないということの意味は、単に忘れないということではなく、何より自分が実感し、その時の人々に共感することにある。そんな風に思えた。

 

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