夕凪の街 桜の国 (2007)
»レビュー
申し訳ないですが・・・
2007/08/11
by
星空のマリオネット
この映画を低く評価するのは少し勇気がいるというか、申し訳ないというか、そういう迷いもあります。
原爆体験を風化させてはいけないという使命を帯びたこの映画。世代を超えてどこまでも追いかけてくる原爆の恐怖と悲しみを切々と、また飄々と訴えかける涙を誘うドラマです。
空席の目立つ金曜夜の映画館。
始まったころはイビキの音が気になったのですが、途中から鼻をすする音があちこちで聞こえるようになり、映画が終ったあと、原作の存在を映画館のもぎり係りの人に尋ねるお客さんの姿まで見ました。それだけ感動させてくれる映画なんだと思います。
しかし、映画そのものの出来は50点にも届かないレベルではないでしょうか。テレビの2時間ドラマ並み、というのは不適切な表現かもしれませんが・・・そんな感じです。
観る前から懸念の方が大きかったのですが、予想以上に安直なつくりの映画で、驚きました。
先日、トップランナーという番組に本作の佐々部清監督が出演していました。映画監督というものに対し固定観念を持ってはいないつもりですが、佐々部監督は、それにしても監督という雰囲気が全くしない、快活で多弁な良い兄貴のような人です。また、短期間で映画が撮れる監督としても有名なんだというようなことを、ご本人が述べられていましたが、本作を観て、さもありなんと思ってしまいました。
映画に対して何を求めるかは人それぞれですが、映画が自分にとって大切なものだけに、物語の筋を手垢のついた表現で辿るだけの通り一遍の演出には、ガッカリさせられてしまいました。
また、本作の場合は漫画が原作であることも悪い方に現れてしまっていると思います。俳優の立ち振る舞いや表情や台詞にいかにも漫画そのものといった場面がいくつもありますが、その表現ぶりが中途半端だし安易にも感じました。
音楽の使い方も昔の通俗的なメロドラマのようで、陳腐と言わざるを得ません。
制作費も大きくはなく、撮影期間も短かったのではないかと想像されますが、原爆という重いテーマを扱っているだけに残念です。
原爆をテーマとした映画には、今村昌平監督の「黒い雨」や、個人的には余り好きではないですが黒木和雄監督の「父と暮せば」等優れた作品があります。
「夕凪の街 桜の国」は、それらの映画と共通するテーマを持っていますが、さらに今でもその深い傷に苦しむ人がいるということを、身近に描いている貴重な作品です。
それだけに、せめてもっと丁寧に描いて欲しかったなあと思います。
8人がこのレビューに共感したと評価しています。
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Re: 申し訳ないですが・・・
2007/08/13 by
ran
この映画を観て演出法とか監督の人柄とか漫画が原作とかが気になってしまうってのはなんだかなぁって感じです。
なんかこう、この作品の意味ってそういうことじゃないんじゃない? -
Re: 申し訳ないですが・・・
2007/08/13 by
ROH
私はこの映画を評価しますが、星空のマリオネットさん的な批判は全然ありだと思いますよ。
というのも、評価はするけれど原作と比べたら確かにちょっと音のつけ方などの映画ならではの部分でセンスが悪いし、評価すべきポイントも演出の妙というよりは堺正章さんや田中麗奈さんのおそらくアドリブ的に表出した感情の昂ぶりだったりするからです。それを確信犯的に求めた監督の姿勢は評価に値しますが、一方でそれは純粋に演出といえるのかどうかという「?」はついてまわると思います。つまり志は高いのですが不器用な部分も多いのではないかと思います。そこが大目に見られるかどうかは観客の感性でしょうが、少なくともこの作品ではそこが気になって高評価はできないという人が出てくるのも致し方なしと思わせる程度のクオリティーには違いないと思いますね。
ただ私に関していうと堺正章さんのラストの電車の中での演技は映画の評価を30点くらい上げるに値する見事なものだったとは思います。
気をつけていただきたいのは、こういう作品だからといって批判してはならないというものではないということです。それは逆の意味で言論統制というか無用のタブーを形成してしまう危険性を秘めていると思います。 -
Re: 申し訳ないですが・・・
2007/08/14 by
星空のマリオネット
ranさん、ROHさん、ご意見ありがとうございます。
ROHさんの「・・・無用のタブーを形成してしまう危険性を秘めていると思います。」というご指摘はその通りだと思います。
先ず、ranさんの言われる「なんかこう、この作品の意味ってそういうことじゃないんじゃない?」という疑問については、尤もな部分もあると思います。私自身にもそういう思いがあって、レビューを投稿しようかどうかちょっと迷いました。
ただ、私としては、観た映画についてはその都度全てレビューを書くということを、また自分の映画に対する価値観(映画に求めるもの)に基づき正直にレビューを書くということを自分自身のルールにしているので今回も投稿しました。
(自分の満足度の低い映画については、制作者に失礼になるというか、書く方も余り気持ちの良いものではないので、投稿しないという方もいると思います。また、映画のテーマに配慮するなどして遠慮される方もいるかもしれません。)
因みに「夕凪の街 桜の国」については、この「映画生活」のサイトに多くのレビューを投稿されているこのサイトの「登録者」の方々からは、いまだほとんど投稿がありません!?
一方で100点満点の高評価が続出しています。そのレビューひとつひとつはどれも心のこもった真摯なレビューだと拝見しましたが、映画のレビュー総体としては結果として少し偏りが出てしまい、まだ観ていない人に誤解を与える可能性があるのではないかと思っています。
こういう地味な映画が多くの人に観られるかどうかは、テーマだけでなく結局その映画そのものの質が問題になってくると思います。
そのテーマに関して何らかの体験をされた方にとっては、映画を観ることでその体験が蘇えり、経験していない人には想像できないほど深いものが見えるということは、確かにあると思います。ただ、より広い範囲の人に見てもらい、後世に残るような映画となるためには、やはり映画そのものの質が高いということが不可欠な条件になると思います。
また、いただいたレスからは少し話しがずれてしまいますが、涙が止まらなかったということ自体を賞賛の第一の理由にするのは、いかがなものでしょうか? 私もこの映画を観て涙を流しましたし、佐々部監督の作品の中では、「半落ち」を観たときには半端でないほど涙が溢れてしまいました(原作はそれほど涙を誘う物語ではなかったのですが、佐々部監督はこの扱いにくい原作をメロドラマとして巧く撮っていました。観客を泣かせる術を心得た監督なんだと感心した記憶があります。)。
ただ、涙を流したからといって、「半落ち」が特に優れた映画だとは思えませんでした。むしろ、佐々部監督がその構想をずっと暖めていた「チルソクの夏」の方がずっと良かったと思います。
それから、ranさんの「・・・監督の人柄とか、漫画が原作とかが気になってしまうってのはなんだかなあって感じです。」についてです。
この点については、少し誤解されているように思います。たまに漫画が原作である映画を観て、漫画にも面白い物語や世界があるんだなあと驚かされることがあります。原作が漫画だからいけないと言っている訳では全くありません。しかし、本作の場合は、漫画の絵や台詞をいかにもそのまま映画に移しかえているのではないかと想像されるシーンがあって、映画なりのイメージや工夫に欠けているのではないかと思った訳です。監督がこの原作を愛し、そのうえで監督の内からゆっくり湧き上がってくるものをじっくり表現して欲しい、とでも言えばよいのでしょうか。
監督の人柄云々のところは、少しもって回った言い方をしてしまったかもしれません。敢えて直接的な表現を避けた面もあります。
あくまでも個人の感想ということでお許しいただきたいのですが、先日のテレビ番組を見て、職場で一緒に働く人としては有能で一所懸命な兄貴分的存在として尊敬できる人だと思いました。実際に短時間で映画という作品を仕上げるためには統率力や割り切り・決断が必要にちがいありません。ただ、本音を言えば、「芸術家」には見えなかったということです。これは佐々部監督の過去の作品に対する感想でもあります。
長年務められた助監督時代の経験からでしょうか、映画のツボを心得られていて、職人としての技量に長け、素早く無駄なく器用に映画作りができるけれど、この人独自の世界や表現振りというものがなかなか見えてきません。それは今回観た「夕凪の街 桜の国」においても同様でした。
ところで、ROHさんが言われる「評価すべきポイントも、演出の妙というよりは堺正章さんや田中麗奈さんのおそらくアドリブ的に表出した感情の昂ぶりだったりするからです。」という評価については、私には実はよく分からないところがあります。
佐々部監督の場合は、演技は俳優さんに任せる部分が大きいそうなので、役者さんの自発的な力を引き出すことができるケースもあるのだと思いますが・・・
田中麗奈さんは、若手の中の中堅どころでは最も存在感のある良い役者さんに成長されていると思います。前作の「暗いところで待ち合わせ」もとても良かった。今回はやや中性的な役柄で、これも快活に演じて巧いなあと思いましたが、堺正章さんとの終盤のシーンがそんなに良かったのかどうか・・・恥ずかしながら私自身は余り印象に残っていません。よろしかったら、どのように素晴らしかったのかもう少し説明していただければありがたいです(素直な質問です。)。言葉で表現するのは限界があるかもしれませんが・・・
書いているうちにかなり長くなってしまい、失礼しました。
お伝えしたかったことは簡単なことで、映画が一つの独立した「作品」である限りは、どのような背景をもった映画であろうと、自分なりの尺度で評価したいし、そうすべきであると思っているということです。 -
Re: 申し訳ないですが・・・
2007/08/14 by
ran
この作品に対して高評価をつけた人は2通りの人がいるんじゃないかなと思うのです。
1.単純に感動した、良かったので高評価
2.戦争を考えるきっかけとして皆に見て欲しいという想いから作品の注目度を高めるための高評価
私は後者です。
戦争を考えるうえで映画というメディアが持つ強みはテレビドラマよりもはるかに大きいと思います。
「ドラマ the movie」みたいな安直な映画や
ハリウッド超大作を見る時間があったら
「おっ?これランキング1位だしちょっと見てみようかな」という人が増えるのを微力ながら願ってたりします。それ故の100点。
映画評的には星空のマリオネットさんのおっしゃることも理解できますしタブー云々に関しても同意です。
私のような考えで高評価をつけてる人間もいるっていうぐらいでお考えいただけたらと。
失礼しました。 -
ranさん、こんばんわ
2007/08/14 by
星空のマリオネット
丁寧で簡潔なレスありがとうございます。
私の方はダラダラと長く書きすぎてしまいました。悪い癖ですが、これがなかなか治りません。
ranさんの趣旨、よくわかりました。
実は、私はこのサイトの満足度が大変高いのが気になって観に行ったクチです!
この映画は佐々部監督の作品なんだなあとか、レビュー一覧には日頃よく見るレビュアーの方々の名前がほとんど見当たらないなあとか、投稿者のほとんどが100点か90点をつけていて居心地が悪いなあとか自分なりに疑問が膨らんでしまい、これは観るしかないと観念し、自分のテリトリーではない映画館まで観に行きました。
確かに、このサイトの満足度がこんなに高くなければ、多分観には行かなかったでしょう。
しかし、ranさんのような人たちや、或いはロケ地まで見に行かれたほど感動した人たちがいるという事実は、映画が持つ力の凄さを再確認させるものですね。
(逆に振れると怖ろしいですが・・・)
ある映画を観たときの「満足度」というのは、その人の価値観や感性や映画に関する経験(鑑賞量・内容、制作等にタッチしたことがあるか否か)等により異なってくると思います。そして、それぞれの楽しみ方があるから、映画の多様性が保証され、映画というものが様々な役割を果たすことができてきた、ということになるのでしょう。あたり前のことですね。 -
原作の漫画を読んでみました
2007/08/23 by
星空のマリオネット
昨夜、原作の漫画「夕凪の街 桜の国」を読んでみました。
とても良かった。
心に染み入る清々しい語り口。
絵も台詞もシンプルで自然でいて、そこには細やかな心が通っています。
「夕凪に街」はわずか35枚、「桜の国(一)(二)」を含めても100枚のごく短い物語。
贅肉をそぎ落とした清潔な物語です。
メロドラマ的な色づけや、余分なエピソードはどこにもみあたらない、誠実で真摯な姿勢に貫かれています。
皆実の言葉が、七波の感慨が、素直に読む者の心の中に入ってきます。
この物語をあるがままに受け入れることができれば、それでいいだなあと思わせてくれます。
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