善き人のためのソナタ (2006) »レビュー

淡々と生き抜く人生にも一瞬の輝きが

80点 2007/12/18 by 星空のマリオネット

善き人のためのソナタ

静寂が支配する盗聴室。その中でひとり息を殺し、ドライマン(劇作家)と彼の恋人クリスタ(女優)の会話や息遣いに聴き入っている男がいる。彼は国家保安省局員ヴィースラー。
盗聴用のヘッドフォンをつけた彼は、出世など自分の利益のために人を陥れるような人間ではなさそうだ。ただ、社会主義体制にとって危険な人物を監視し排除することが、自分の役目であると信じ自らを律し淡々と生きている。

しかし・・・孤独である。

彼は被盗聴者たちの人間らしい愛や苦悩や勇気に触れ、自らの孤独に初めて気づいたのかもしれない。人と愛し合いたい、ともに生きたいという切実な願いに、彼の行動は監視員のそれを逸脱していく。

女優への愛ある説得が実を結んだ時の彼の喜び。
逆に彼の行動が女優を追い詰めたときの悲しみ。
彼が生きた瞬間。

虐げられても、それを受け入れ文句一つ言わず淡々と仕事をこなし生きている彼。ベルリンの壁崩壊後もその姿は同じである。
彼の思いや行動は誰にも届かず、知られないままで消えてしまうのか!?


ベルリンの壁崩壊前の東ドイツの「監視」社会の実態。腐った権力が人々に盲従を強制する。虎の威を借り他人を不当に支配することを楽しむ卑劣漢たち。
この映画、最初はとても「しん気臭い」という印象でした。

しかし、食堂での冗談?には心底怒りを覚えてしまった。人を弄び萎縮させるひどすぎる言動。いまや懐かしのホーネッカー書記長を茶化した一人の若者へ投げかけられた怖ろし言葉。
批判も前向きの競争も許さない閉塞感に充ちた社会の先にあるのは、停滞と崩壊。

企業でも同じようなリスクはあると思う。官僚的な組織。上だけを見て、仕事が巧くいっているように見せる人々。一方、無視されることで事実上殺されていく人々。

この映画のような救いが、現実社会にあるかどうかはわからない。

 

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