ボビー (2006)
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現実を前にすると無力な理想
2008/06/16
by
牧坂満
ホテルを舞台に人間群像劇を描くやり方は映画の台詞にも登場する「グランド・ホテル」の形式です。この形式が生きる瞬間がR・F・Kの暗殺事件が発生したときです。アンバサダーホテルで交錯していた十人十色の人間模様が衝撃を受け止め無力感に落ち込んでいくラストシーンにR・F・Kの演説が流れるのです。マフィア撲滅運動を推進したり、公民権運動の反対派と激しく対立したリベラル理想主義者としての美しいスピーチと産業廃棄物や二酸化炭素排出問題に暴力終結をいち早く提唱した先見の明が感じられる内容が感動を盛り上げます。しかし、映画に政治の匂いはなく、1968年をやるせない思いで振り返っただけの演出が物足りなさを感じます。
「グランド・ホテル」形式は、邦画「THE・有頂天ホテル」でもオールスターキャストで撮られていますが、本作品もハリウッド映画主役級の俳優が大挙して出演しているので、その顔ぶれだけを眺めるだけでも観賞価値があります。往年の美女だったシャロン・ストーンとデミ・ムーアが“女の賞味期間はアイスクリームのように僅かの時間に限られる”と交わす台詞に、彼女たちのハリウッド女優としての存在価値を語らせているようで、私自身にとってはこちらの方が感傷的気分にさせられたのです。
社会主義国であるチェコスロバキアから派遣されている女性記者を主要登場人物に起用していることも本作品に厚みを与えています。当時のチェコスロバキアはアレクサンダー・ドプチェクが共産党第一書記に就任して、国内の自由化と民主化運動を推進していたので、国内外からは、プラハの春と敬称されて賞賛されていたのです。映画では女性記者に“ドプチェクはチェコのR・F・Kよ”と語らせて、チェコスロバキアの自由化運動に希望を託す人々の思いを代弁させるのです。また、フランスではソルボンヌ大学を中心にして五月革命が勃発した時代でもあります。
映画はドキュメントフィルムを挿入してR・F・Kと周りの人々を画面に展開しますが、言葉や音の代わりにサイモン&ガードファンクルの“サウンド・オブ・サイレンス”が優しく流れます。“一人の人間がその信念の上にしっかりと立ち留まるならば、無限の世界がその人の周りに集まってくるだろう”。ラルフ・W・エマソンの言葉を好んで引用したR・F・Kのスピーチです。ローレンス・フィッシュバーン扮するコックにアーサー王を語らせる台詞“優しく、寛大で、謙虚で、冒険を怖れない人こそが王だ”の文字はR・F・Kの襲撃現場に書かれますが、この王の条件こそがR・K・Fを形容していると思います。襲撃犯人はパレスチナ人のサーハンとされていますが、アメリカ合衆国はR・F・Kを謀殺したときに、国家の希望も圧殺してしまったのです。
R・F・Kは6月6日にグッドサマリタン病院で亡くなりました。享年42歳。その後、チェコスロバキアの自由化運動を圧殺するために、ソ連・東欧五カ国がチェコスロバキアに侵攻します。フランスは世界で五番目の核保有国となりました。R・F・Kが遺した言葉“暴力は国家の品位を貶める”は、理想は現実を前にすると圧殺されてしまうことを痛感させられました。
【TOHOシネマズ六本木ヒルズ】劇場鑑賞
【レンタルDVD】鑑賞
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