ミュンヘン (2005) »レビュー

国家への愛国心と家族への愛情の相克に苦悩

100点 2008/04/18 by 牧坂満

ミュンヘン

 私が大学生のときに“ミュンヘンオリンピック・テロ事件”が起きました。歴史的紆余曲折があって、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)はアラファトPLO議長の決断によって歴史的握手が交わされましたが、一世紀以上の苦悩は現在でも続いています。

 映画、文学などイスラエルに関係する作品は全部と言っても過言ではないくらいに欧米からの発信に頼っています。私たちとは次元の違う歴史・宗教観も込められている筈です。パレスチナ問題は、所謂、国土という土地の争奪戦であるにしても、民族と宗教が複雑に絡み合い、根は深淵が覗けない程です。だからこそ、第三者的立場の国々こそが公平な判断する確かな目を持たなければならないでしょう。

 映画はパレスチナゲリラへの報復を決定したイスラエル政府が同国の秘密情報機関モサドにミッションを命令します。スピルバーグ監督はモサドのエージェントであるアヴナーを人間味溢れる主人公として描いていて、国家への愛国心と家族への愛情の相克に苦悩するヒューマニズムは黒澤明監督作品を彷彿とさせます。

 スピルバーグ監督が見事なのは、パレスチナとイスラエルの問題を公平に描いていることにつきます。アヴナーが暗殺しようとする人間標的も血の通った人間であり、無類の善意を持っているのです。殺害しようとした人間から、パレスチナの大義や理想を聞いてしまい、アヴナーの心に迷いが生じるのです。

 自分が行う殺人の正当性に疑問符を投げかけるアヴナーを演じたエリック・バナの演技力は本物でした。凍りつくような戦慄を覚えたラストシーンは政治の冷酷非情なリアリズムとして観客を悲しみの深淵に突き落とすでしょう。

 

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